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“銭湯”の盛り上げ役から、地域の盛り上げ役へ 鶴見「清水湯」髙橋政臣さん

“銭湯”の盛り上げ役から、地域の盛り上げ役へ 鶴見「清水湯」髙橋政臣さん

当たり前にあるものを引き継ぐ

ーー銭湯を継ぐことになったきっかけは何ですか。

祖母の3回忌が終わった後に、父から電話がかかってきて、「もうそろそろ辞めようと思う」という話をされました。小学校ぐらいの時は、僕も将来銭湯を継ぎたいと作文に書いたりもしていましたが、大人になってからは特に考えていなかったんですね。東京でIT系の会社に勤めていましたが、銭湯はそれまで当たり前にあるものだったので、なくなるのは寂しいなと思ったんです。

経営状態はあまり良くないのは知っていたんですが、自分が関わらずに辞めるよりは、とりあえず関わってから辞めようと思いました。とりあえず最後に関わって、自分の気持ちの整理がしたいなと。

ーー仕事を辞めて銭湯業界に飛び込むことは、怖くはなかったですか。

不安は不安でしたが、どのみち何をやるにしても、完全に安心感があるものってなかなかないですよね。その中で、やりたい方向に行くことにしたという感じですね。

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イベント時は装飾や看板、ベビーカーで玄関がにぎやか

ーー子どもの頃も、手伝いはされていたんですか。

小学校6年生までは家風呂がなかったので、ずっと銭湯に入っていました。番台に座らせてもらったりもしていましたね。銭湯の子どもだというので、一人で湯船に浸かっているとお客さんにもけっこう話しかけられて、近所のほとんどの人と顔見知りになりました。

だんだん姉も自分も思春期になってくると、そういうのが嫌な時期もあって、家を改築することになって初めて家風呂に入った時は、嬉しかったですね(笑)。

住人と地域をつなぐ「銭湯シェアハウス」

――銭湯を継ぐにあたって、これをやりたいと考えていたことはありますか。

銭湯だけだと、お客さんの数も限られるし、集客の大変さも認識していたので、いろんなことを組み合わせていくことで、余力を増やそうとは考えていました。その一つがシェアハウスです。銭湯があるということを売りにするというよりは、この場所を利用した事業の一つとして最初は始めました。僕自身も東京でシェアハウスに住んでいたことがあって、すごく楽しかったので、その経験が活かせればと思い立ったんです。

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――建物自体、とても大きいですよね。

創業当初は住み込みで働いている方たちもいたので、その人たちのための部屋もありましたし、さらに増築もしています。今は使っていない部屋も含めて、8部屋あります。今年で6年目になりますが、のべ20人ぐらいが住んでいますね。

――住んでいるのはどんな人たちですか?

自分と妻のつながりや、問い合わせをいただいてたまたま空いていたタイミングで入った人もいます。自分で会社をやっている人や、フリーランスの人が多いですね。ウェブ系や、ハチミツの流通全般をやっている人、観光客と学生をつなげるようなベンチャーをやっている学生、これからアフリカで事業を興す人もいます。

海外に仕事や留学で行って、帰ってきた人が住むというパターンも多いですね。空いていればすぐ住めますし、「やっぱりお風呂っていいね〜」なんて話しているので、無意識に日本的なものを求めているのかもしれません。

――こんな人に入ってほしい、という基準などは決めていたんですか。

その時々でいろいろ考えながらやってきたんですが、家やまわりの環境って常に変わるものなので、そういう変化をみんなで共有できる場所にできればと思っています。一昨年には、一組の夫婦に赤ちゃんが誕生して、家族連れがいる環境になったんです。シェアハウスとしてはちょっと特殊ですし、夜泣きが気になる人もいると思いますが、そういう自分にはないもの、自分もこれから体験するかもしれないことも、人と一緒に暮らす中で、予行練習というか、一つの豊かさとして受け入れていけるような人に来てもらっています。

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――そういう方たちが住むことで、銭湯には変化はありますか。

清水湯に住んでいる人だと認識してもらうことで、住人も、近所の方も、お互い話しやすいというのはあるみたいですね。僕の知らないところで交流が始まっていて、すぐそこのおでん屋さんは「あの子ペルー行ってたけど今どこにいるの?」とか「あの子はアフリカ行くんだって?」と気にしてくれています。

何回か住人に番台もやってもらっているので、常連さんに面白がられて「誰だお前は」「ここに住んでるんです」みたいなやりとりもたまにあります(笑)。

また、銭湯やシェアハウス自体は、その場所の中のみでの事業なので、街を歩いている地域の人と話すきっかけづくりをしようと思って、住民と協力してかき氷屋さんや焼き芋屋さんの屋台を出したりもしました。地域のお祭りにも参加させてもらって、お神輿もみんなで一緒に担がせてもらっています。

さまざまな人が交わる場に

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花見祭の日も、番台がドリンクカウンターに

――銭湯では珍しい催し物も、たくさん開催されていますね。

これまでヨガやピラティス、ダンスワークショップなどを脱衣所で開催しました。ご縁があって、こちらから講師をお願いしたことも、清水湯でやってみたいとお声掛けいただいたこともあります。

それから、番台の形を活かして、何かコミュニケーションが生まれるきっかけにできないかと考えたのが、「銭湯BAR」でした。出張でバーテンダーをやっている友達に協力してもらって、銭湯の常連さんや、銭湯には来たことがなかったけど近所に住んでる方、都内に住んでいる僕の知り合いもわざわざ来てくれました。せまいので10人も集まると大変でしたけどね。毎回バーテンダーさんを呼ぶのは大変なので、もう少し簡易的な形でも、今後もやっていきたいなと思っています。

すね。

――シェアハウスも、そういったイベントも、高橋さんの交友関係の広さがとても表れていますね。

顔が広いというよりは、自分からいろんなところに顔を出して、いろんな人と話をすることで、刺激を受けたり、アイデアをもらうということはしていますね。自分だけであれこれ考えていても、発想に限界があるので、昔から銭湯で働いてくれている方にも協力してもらいながら、自分はフットワーク軽く、外に情報を求めに行くようにしています。

イベントをやることで、普段とは出入りする人が違う環境を作り出せるのが良いですね。

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花見祭は昼の部と夜の部に分かれ、ライブや朗読も

――毎年開催されている花見祭は、どのように始まったのでしょうか。

僕が継いですぐの頃に、台風で屋根が飛んでしまって、修繕のために銭湯を休業せざるを得ないときがありました。お風呂は使えないし、何もないけれど、人が集まるだけでも励みになるよねということで、1回目は桜をちょっと飾って、室内でみんなでご飯を食べるくらいの感じでした。

それからいろんな人の協力で、規模がどんどん大きくなってきて、昨年はライブをやってくれるミュージシャンや、おでんやたこ焼きなどのおつまみ販売、地場野菜を扱う八百屋さん、タイ古式マッサージ、アクセサリー屋さん、古本屋さんなんかも出店してくれました。

自分の知り合いだけでなく、そういった関わってくれる人の知り合いなど東京から来てくれる若いお客さんが大半で、タクシー会社の人は不思議がっていたみたいですね。「駅から清水湯に行く女の子みんな可愛いけどなんなの」って(笑)。

常連さんや地域の人のためにできること

――SNSや口コミですごく発信力のあるイベントになっていますね。

昨年は計約130人が来てくれました。ただ、地元の人に情報発信するのがすごく難しいなとは感じています。一応近隣の人たちには無料券を配って、老人会や町内会の方も来てくれたんですが、空間もせまいですし、入りづらいところはあったかもしれません。常連さんと東京の若い子が一緒に飲んでいる姿は面白かったですけどね。

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横浜の八百屋さんも出店した

今年はお花見の開催は人員的に難しいんですが、今後は、バーのようなコミュニケーションの場や、地域のお店と一緒にやる小さなマルシェなど、いつも来てくださってる方や、近所に住んでいる方のためになるものをもっと考えたいなと思っています。

この辺りは一人暮らしの男性も多いみたいなので、漫画が充実していたらもっと快適に過ごせるんじゃないかなと思って、最近少しずつ漫画を集めたりもしています。スーパー銭湯とかの量にはかなわないので、ちょっと珍しいものや、紹介したい漫画を中心にしたら面白いかなと。本棚を作って、フロアの拡張もしたいですね。

――大きなイベントからは、方向をシフトしていくということでしょうか。

お花見も、銭湯Tシャツなどのグッズ販売もそうですが、銭湯というもの自体に注目が集まればと思ってやっていた部分が大きいので、けっこう銭湯が話題になっている今、自分がやるより、都内でやるほうが発信力があると思っているんです。

銭湯っていう業界全体で見られることが多いですが、実際は飲食店とかとあまり変わらない部分が大きくて、うまくいっているところも、そうでないところもあるし、駅前にあるのか、遠くにあるのかなどによっても、いろんなやり方があると思います。業界全体としての発信はいろんな方がしてくれるので、僕は自分の銭湯でできることをもっと中心に考えていこうと思っています。

最初は3年ぐらいやれたらと考えていたので、ここまで続いているのはある意味想定外ではあるんですが、現実的な問題はいろいろと解決しながら、常連さんのために一日でも長く続けられたら良いですね。

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