「検証できる事実を積み重ねる」〜ファクトチェック・イニシアティブ・立岩陽一郎さん
メディア関係者や情報発信に関心のある人たちの勉強会「ローカルメディアミーティング」。情報や発言の真偽を調査する「ファクトチェック」をテーマに、昨年NPO法人化した「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」の立岩陽一郎さんを講師に迎えました。ファクトチェックを日本国内で推進・普及するためにどんな活動を行っているのか伺いました。(写真・文 齊藤真菜)

一橋大学時代、アメリカンフットボール部に所属していたという立岩さん。冒頭は、日本大学アメフト部の記者会見についてのコメントから始まりました。

 

 

記者会見のような場では、派手な質問や責任を追及するための質問が目立ちがち。それはそれで大事ですが、真実を導き出すためには、「メディアで取り上げられるための質問と、事実を積み重ねる質問は違う」ということを念頭におきながら取材に臨むことが必要だと立岩さんは話します。

 

エンマ大王Tシャツを着て登場した立岩陽一郎さん

 

立岩さんは、NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクとして主に調査報道に従事。政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープしました。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職し、現在は調査報道を専門とする認定NPO運営「ニュースのタネ」編集長を務めるほか、公益法人「政治資金センター」理事として政治の透明化に取り組まれています。

 

 

立岩さんが理事を務めるFIJでは、「事実」「ほぼ事実」「半分事実」「ほぼ事実でない」「嘘」などとニュースに対してレーティングを行っています。レーティングの目印はエンマ大王。モデルにしたのは米国・ワシントン・ポストのピノキオで、マークが多いほど嘘に近いということになります。「あいつおれの発言を4ピノキオと言いやがって」といった使い方をされているそうです。

 

 

たとえば、FIJが実施した「2017総選挙プロジェクト」では、安倍晋三首相の「(消費税の)2%の引き上げにより、5兆円強の税収となる」という発言をチェック。「発言の一部に事実と認定するのに不確かな要素がある」(エンマ度1)と判定しました。

 

松井一郎大阪府知事の発言には「エンマ度3」判定

 

また、松井一郎大阪府知事の「大阪で教育無償化が実現している」という発言については、「事実ではない」と判定。実態を把握できる立場であるにもかかわらず事実と異なる発言を行ったことを大きく問題視し、「エンマ度3」としました。

 

 

このファクトチェックは、FIJに参加する「ニュースのタネ」や「Buzz Feed Japan」などのウェブメディアがまず実施し結果をそれぞれのサイトで公開、FIJの評価委員がガイドラインに準拠していると判断されると、FIJのサイトにも掲載されていきます。

 

 

「ファクトチェックはフェイクニュースに対する特効薬ではない」という立岩さん。時に社会を混乱させることもあるフェイクニュースですが、話題になってアクセスが集まることで、広告収入につながるため、乱立してしまうという理由があります。そういった状況を変えるためにも、事実を重視する社会を確立するために、フェイクニュース拡散阻止の成功事例を増やしていこうと、ローカルレベルでできることはありそうです。

 

 

たとえば日本の新聞に顕著なのが、情報源やエビデンスを明確に示さないということ。「政府筋」「関係者」といった表記の仕方をよく見かけますが、具体的な情報提供者やデータの参照元を示すことで、報道内容の信用度を上げることができます。

 

参加者からの「意見の違う人でニュースの取り上げ方が全く違い、事実と価値観の見極めが難しい」との声には、「意見はどんどん排除していって、最終的に検証できる事実を見つけないといけない」とのこと。意見そのものはファクトチェックできませんが、その根拠は十分なのかを検証して提示していくことが、今の日本の報道に必要なことだと回答いただきました。

 

立岩さんは、ローカルメディアミーティングコーディネーターの船本由佳さんのNHK時代の先輩でもあります。船本さんからは「大手のマスメディアといわれる報道こそが信頼がおけて、一部の悪意のある人がフェイクニュースをだしているということを学ぶものだと思っていた」「ニュースについて何かを指摘した途端、自分のことを調べられたりするんじゃないか」といった率直な感想も

立岩さんが北朝鮮を訪れたときのお話も。軍隊が行進する金日成広場はテレビで見る印象よりかなり小さかったこと、街は経済制裁で厳しい状況にあるようにメディアは描きたがるけれど、平壌には高層アパートが立ち並びおしゃれな服を着ている人が多く、人々はスマホを持って闊歩していて、変わろうとしているという息吹が感じられたことなどを教えていただきました。背景にうつる写真は水族館を訪れていたカップル

 

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この記事を書いた人
齊藤真菜ライター
アートやデザイン、まちづくり等に関する記事をフリーライターとして執筆する傍ら、西区・藤棚商店街で間借り本屋「Arcade Books」を営業。食や地域、デザイン、映画、植物等に関する本をセレクト・販売する。将来の目標は泊まれる本屋を開きながら自分のウェブメディアを運営すること。
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