フリーペーパーで旅する神奈川(1) もとすみマニアックず。/元住吉
急速に再開発が進む川崎市の武蔵小杉の隣駅・元住吉。慶應義塾大学が近く、都心に比べて地価が安いからか、元住吉で一人暮らしをしていると聞くことも多い。「ブレーメン通り」「オズ通り」といったメルヘンチックな商店街の名前や所々に残る昔ながらの商店に、どこか親しみを覚える。 チェーン店の進出も目覚ましいが、少しずつ若い個人経営者による飲食店なども増えており、常連客のコミュニティもできてきた。そうした地元の新しい魅力にスポットを当て、若い人が行動を起こすきっかけになればと生まれたのが、20代前半の女子4人組が作る「もとすみマニアックず。」だ。
編集長の山川みずきさん、デザインを担当する美大在学中の松本奈美さん、PRの西巻郁里さんと創刊号ではモデルも務めた仁科綾さんは、中学の同級生。当時から全員が同じ仲良しグループだったわけではなく、高校も大学もバラバラだった。 「大学3年の時に、たまたま6人くらいで集まろうと言っていた飲み会に、2人来れなくなって、集まったのがこの4人でした。前のめりなメンバーで、近況報告とかしてたら、何かしたいよね、という話になったんです。元住吉は居酒屋とか飲むところいっぱいあるのに、外行っちゃうのもったいないよね、地元が愛されるような活動をしたいねと話してました。」(山川さん) その4人で作ったLINEグループの名前が「もとすみマニアックず。」。以前から雑誌を作りたかったという山川さんの提案で、その名を冠したフリーペーパーを作ることになった。
卒業や就活を控え、大きな環境の変化を迎える最中だったが、それぞれ紙媒体の編集経験、広告や情報発信に関するプロジェクトに関わった経験、持ち前の行動力などを活かし、役割分担もスムーズに進んだ。特定の人に任せてしまうことなく、取材にも全員で出向き、企画・制作を進めていった。撮影は、美大在学中のカメラマン・湯本浩貴さんが担当してくれた。 3月に創刊した第1号の取材先に選んだのは、元住吉駅西口に昨年5月にオープンしたベトナムサンドウィッチ・バインミーの専門店「Thao’s(タオズ)」。1号で紹介するのは1店舗のみだ。お店を始めたきっかけから好きな音楽まで、店主の小坂由紀さんの飾らぬ人柄が伝わる、"人"に焦点を当てた内容になっている。「マニアックず。」のポップな文字が躍る表紙には「作る人」、裏表紙には「食べる人」を配置したのも、対等な関係でコミュニケーションを楽しみたいというこだわりだ。 「お店同士もつながってるから、『あそこも行ってみたら』といわれてほかのお店ににも行くようになって、通っている人たちと顔見知りになる。あの人今日いるかなとか、ちらっと思うと、今日もう遅いけどちょっと寄ってくか、となって。それがすごい面白いなと。」
今夏発行予定の次号の舞台は、ブレーメン通り商店街の人気カフェ「MUI(ムイ、旧店名もとえ珈琲)」。近隣や都内の配布店舗情報や取材時の様子を発信するSNSでは、取材直後の興奮した様子が伺える。8月には、同店での交流イベントも決まった。 ネット世代らしく「皆『顔載るの無理』みたいな子じゃない」という4人は、名前こそ明記していないものの、誌面にも登場する。読み手と作り手、そして街の担い手をフラットにつなぐ、そんなフリーペーパーだ。 (齊藤真菜)