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「美の基準」を持つ町の魅力をアートと交流を通して感じる「真鶴まちなーれ」

「美の基準」を持つ町の魅力をアートと交流を通して感じる「真鶴まちなーれ」

町民の生活に息づく「美の基準」

――「真鶴まちなーれ」の成り立ちを教えてください。

平井:真鶴は「美の基準」という独特なまちづくりのルールを持っています。たとえば建物の色彩基準は京都などにもありますが、真鶴ではただ「ふさわしい色」という一言しかないんです。また、建物の色や形状だけではなく、世帯の混合といったコミュニティの基準もあります。集合住宅であれば、子育て世代だけではなくて、高齢者や単身者も住める、いろんなニーズに応えられるものにしてください、といったものです。

s-mgc_4883ディレクターの平井宏典さんと実行委員長の卜部美穂子さん

卜部:ただそれは、最初から町が計画して作ったものではなくて、もともとあった真鶴の歴史や人々の生活を、これからもずっと守っていくための条例なんです。美の基準に惚れて移住してきたという人は結構いますが、昔から住んでいる人からすれば、生活の中にあった当たり前のものを言語化しているだけ。そのままの風景や、町の人々の生活、人々そのものが素敵だということなんです。

平井:僕たちの根底にある、この条例が2014年に施行20周年を迎えたことを機に、この町が好きな人たちが集まって実行委員会を作り、第1回を開催しました。当初からのメンバーに、現役の大学生や、昨年の開催時に真鶴に移住してきた建築家のご夫婦なども加わり、今は20代から50代まで、幅広い人たちが集まっています。

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「美の基準」のモデルハウスでもあるコミュニティ真鶴。真鶴産の小松石や、漁業で使うロープを随所に用いている

――町とアートの相性が良さそうですね。

平井:真鶴は港町ですが、緑も多く、別荘族もいる一方で、ちゃんと地に根を下ろして生活をしてる人もいて、石材業というとても特徴的な地場産業もある。かつ美の基準というものがあって、すごくいろんなものがそろっているので、僕としては、真鶴の良さを伝えることはもちろんですが、一つの思考実験としても意義があると思っています。東京の人たちがこういうところを歩いたときに、東京では感じられない何かがあるかもしれないし、逆に田舎に辟易している人が、アートを通して新たな視点で町を回ったときに、今まで気が付かなかった良さがあるかもしれない。

 普通の観光バスで来て美味しい魚を食べて、半島に行って三ツ石を見て帰ったり、単に美の基準を知って真鶴に来てみた人が街中を歩いたりしても、真鶴の本当の良さは伝わらないと思うんです。ガイドと一緒に観光マップに載っていない細い路地を通って、町の裏側を回ってシャッターや秘密のドアを開けて、アート作品を観て、何を感じて持って帰ってもらうのか。そこに、まちづくり・アートプロジェクトとしてやっている意味があるのかなと。

s-mgc_5016かつて魚屋で使われていた品々を照らす鈴木泰人さんの作品

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